大判例

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東京高等裁判所 事件番号不詳 判決

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負擔とする。

事実

原告訴訟代理人は、原裁判を取消す、市川市選擧管理委員會が昭和二十二年五月十二日に原告に對して爲したところの同年四月三十日執行せられた市川市會議員選擧當選無効の決定を取消す、訴訟費用は被告の負擔とするとの判決を求めると申立て、その請求の原因として、昭和二十二年四月三十日執行せられた市川市會議員選擧に、原告は立候補して當選し、同年五月一日に當選人の告示があり、原告は法定期間内に當選を承諾した。然るに候補者の一人である市川市八幡千七百四十四番地笈川武助は同年五月十日原告の當選の効力に關して市川市選擧管理委員會に異議を申立て、同委員會は同月十二日、その異議の申立を正當とし原告の當選を無効と決定し、同委員會委員長山田萬吉より原告にその旨の通知があつた。仍て原告は同年五月二十八日被告に訴願したところ、同年六月十三日被告は「昭和二十二年五月十二日市川市選擧管理委員會が原告に對してなした當選無効の決定は取消すべき限りでない」と裁決し、その裁決書は同月二十三日市川市役所を經由して原告に送逹せられた。其の理由とする所は、原告が昭和二十一年十二月に不法逮捕傷害の罪により、第二審千葉地方裁判所に於て懲役一年執行猶豫四年の判決言渡を受け、その判決は確定し現に執行猶豫中なる事實を目して、地方自治法第二十條に規定する「懲役又は禁錮の刑に処せられその執行を終り又はその執行を受けることがなくなるまでの者は、選擧権及び被選擧権を有しない」に該當するものと解したものである。併し右裁決は法令の解釋を誤つてゐる。即ち刑の執行猶豫中の者は、同一犯罪につき實刑者より刑法上輕き處分を受けたるものであるに拘はらず、實刑を科せられた者は服役後選擧權を有するに反し、却て長期間選擧權被選擧權を有せざる不利益なる結果を生ずべき理由はないのであつて、地方自治法第二十條に所謂刑の執行を受けることがなくなるまでの者とは、假出獄中の者を指す法意であり、執行猶豫中の者は、これに含まれぬと解釋するのが自治法の精神であると信ずる。仍て前示請求の趣旨記載の如き判決を求めると陳述した。

被告訴訟代理人は主文第一項同旨の判決を求め、原告主張の請求原因たる事實は認めると答辯した。

理由

原告主張の請求原因たる事實は當事者間に爭がない。思うに地方自治法第二十條(選擧當時は市制第十四條第十八條昭和二十二年法律第十五號)が「懲役又は禁錮の刑に処せられその執行を終り又はその執行を受けることがなくなるまでの者は、選擧権及び被選擧権を有しない」旨を規定してゐるのは、懲役又は禁錮の刑に處せられるほどの反社會的行爲をした者に付ては、選擧權及び被選擧權を剥奪すると共に、それらの者が刑の執行を受けることにより又は自ら改めることにより改過遷善の實をあげたものと一般に期待し得べき時期に到逹したときは、これに再び選擧權及び被選擧權を與へるのが相當であるとの見地から設けられたものである。而して執行猶豫の制度は、一面に於て犯人を短期自由刑の弊害から救い、他面犯人の自新により刑を執行せずしてこれを執行したると同一の効果を收めやうとするものであるから、右規定に所謂執行を受けることがなくなるまでの者の中には執行猶豫の言渡を受けて未だその猶豫期間の經過せざる者を包含するものと解するのが正當である。原告は、刑の執行猶豫中の者は、同一犯罪につき實刑者より刑法上輕き處分を受けたものであるに拘はらず、實刑を科せられた者は服役後選擧權被選擧權を有するに反し、却て長期間選擧權被選擧權を有せざる不利益なる結果を生ずべき理由を解することができぬと主張するけれども、規定の趣旨が前説明の通りである以上、刑の執行猶豫中の者が實刑を科せられた者よりも長期間選擧權被選擧權を有せざる場合あることは理の當然である。若し原告の主張が正しいと假定するならば、未だ刑の執行を受けない而も裁判確定の日より半年も經過しない原告が選擧權等を有するに反し、犯人に對する改過遷善の手段として原始的なるものと認められてゐる刑罰の執行を既に或る期間受けた實刑者がこれを有せざることとなり、これこそ權衡を失すると云つてもいいのである。原告の請求は理由がないからこれを棄却すべく、訴訟費用の負擔につき民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決をした。

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